法人設立
1.設立のメリットとデメリット(個人事業主から法人組織へ)
法人を新たに設立し、個人事業から法人組織へと組織を変更することは、メリットとデメリットを伴ないます。
法人設立のメリット
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- 社会的信用が増す(融資・補助金申請で有利)
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銀行等からの融資を受ける場合、法人のほうが融資を受けやすくなります。また融資額もより多くの金額を受けやすくなります。(事業計画の作成が必要)
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- 社会保険に加入できる
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加入できるといいましたが加入義務が発生します。社会保険料の負担は重いですが健康保険の扶養制度は国民健康保険にはありませんし厚生年金は国民年金に上乗せされますので、受け取れる年金が高額になります。
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- 有限責任
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個人事業の場合は無限責任であり事業を通じて負債(赤字)を出せば事業主の個人資産も返済に充てる必要がありますが、法人の場合は事業主(株主)の出資の範囲での責任にとどまります。会社への出資金(資本金)の範囲での責任となります。
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- 従業員を雇うのに有利(雇用保険二事業の補助金申請で有利等)
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従業員を雇うのには雇われる側は最低限の賃金が保証されていることと労働保険・社会保険があること等を考慮して就職を希望します。しかし従業員を雇うとお金がかかります。雇用保険には雇用保険二事業があり雇用の安定又は職業能力開発を促進した事業主に補助金を交付する制度があります。個人事業でも法人でも有利不利はありませんが従業員からすると法人に雇われているほうが気持ち的に安心できるのではないでしょうか。
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- 事業の承継がしやすい
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例えば、中古車販売業やリサイクルショップを営むには古物営業許可が必要ですが、個人事業では親から子への事業を承継させる場合は(親個人名義で許可を受けているものとする)許可の引継ぎはできずに新たに子の名義で許可を受ける必要があります。もし親に不測の事態があれば許可の引継ぎができずに子名義で新たな許可を受けるまでに時間がかかり事業に支障をきたす可能性もあります。古物営業は一例でありそのほかの許可も個人事業の場合は許可の引継ぎができない場合がほとんどです。しかし法人名義で許可を受けていれば代表者の変更等の手続きは必要ですが許可の再取得は必要ありません。万一の場合の相続手続きも会社名義であれば名義の書き換えで済みます。
法人設立のデメリット
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- 赤字でも税金がかかる
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会社は、毎年事業年度が終了してから2か月以内に、法人税、住民税、事業税、消費税等の各種申告書を作成して提出しなければならないことになっています(3月31日決算の場合、5月31日)。赤字会社の場合でも、法人住民税が7万円と、売り上げにもよりますが、消費税の納付が必要となります。
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- 社会保険料の負担
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社会保険(健康保険、厚生年金)の負担が生じます。法人の場合は、加入が義務づけられています。たとえ社長ひとりの一人会社であっても、加入用件に合致すれば手続きが必要です。
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- 設立手続きが煩雑
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個人事業の場合は、税務署に開業届けを提出するのみで足りますが、会社となるとそうはいきません。定款の作成をして公証人の認証を受ける必要があります。株式会社の場合は、定款の認証が必要です(合同会社は不要)。定款には、必ず書かなければいけないことが会社法で決められています。また、設立登記をすることが会社設立の要件となっています。
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- 設立後も諸手続きが必要
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会社の場合は、会社の事業目的を変更したり、追加したりする場合には、定款を変更して、目的変更登記をする必要があります。この場合は、株式会社であれば株主総会の議決を経て株主総会議事録を作成して定款を変更します。その後に、法務局で目的変更登記を行うこととなります。また、役員も設立登記時に登記されますが、取締役の任期は2年(中小会社の場合、定款で最長10年まで任期の延長が可能)ですので、任期満了時の役員変更または再任の登記が必要です。この場合も、株主総会の議決を経て、株主総会議事録を作成してから登記申請をすることになります。
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- 決算処理が煩雑になる
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個人事業に比べて、会社は決算書類の作成が煩雑です。個人事業の確定申告(白色・青色申告)と比べて、必要な書類の数は多く、複雑です。
株式会社
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- 社会的信用が大きい(融資、補助金申請等)
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- 会社の重要事項の変更に対応するのに株主総会で決定する必要がある
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- 設立費用が高い
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合同会社
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- 定款の変更で会社の問題に柔軟に対応できる
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- 株式会社に対して知名度がない
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- 設立費用が安い
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3.個人事業の法人成り<労働保険、社会保険との関係>
1.労働保険
労働保険 とは、 労災保険 と 雇用保険 をいいます。
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- 労災保険
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法人の場合は、強制加入になります。また、個人経営であっても、使用人(労働者)を使用する場合は、農林水産業の一部を除いて加入義務があります。
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労災保険の場合は、被保険者という概念がなく、事業に使用されるものはすべて労災保険の適用労働者とされます。被保険者資格取得届や資格喪失届などの提出の必要はありません。
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事業主は、原則として労災保険には加入できません。ただし、特別加入制度があり、3つの加入形態があります。
① 中小事業主(第1種特別加入者)
② 一人親方等(第2種特別加入者)
③ 海外派遣者(第3種特別加入者)
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特別加入は法人の代表者であっても加入できますが、人数要件もありますし、中小事業主(第1種特別加入者)に関しては、労働保険事務組合に労働保険の事務処理を委託しているという要件もありますので、注意が必要です。
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- 雇用保険
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雇用保険は労災保険と異なり、労働者を使用していても、その労働者が適用除外に該当すれば、雇用保険を加入させる必要はありません。
【雇用保険の適用除外】
原則として、1週間の労働時間が20時間未満の者等、これ以外にもいろいろなものがあります。また、被保険者の区分も4種類あり、それぞれに適用除外になるかならないかの基準があります。
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雇用保険の適用がある者を使用する場合には、雇用保険への加入義務があります。個人事業主のみまたは法人であっても代表者のみの事業は、雇用保険の加入義務はありません。また、特別加入制度もありません。
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雇用保険には、被保険者という概念があり、適用される者があれば、被保険者資格取得届を公共職業安定所に提出する必要があります。
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以上のことから、労災保険のほうが雇用保険よりも適用範囲が広いということがいえます。
2.社会保険
社会保険 には、 健康保険 と 厚生年金保険 があります。
社会保険の場合は、法人であれば、たとえ一人会社であっても加入義務があります。ただし、個人経営の場合は、加入しなくてもいい場合も多く、労働保険よりも適用範囲は狭いといえます(保険料負担が大きいため)。
- 社会保険の適用除外事業(個人経営に限る)
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① 法定16業種であって、常時使用するものが5人未満の事業
② 法定16業種以外の事業(使用人の数に制限なし)
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法定16業種以外の事業とは、第一次産業、接客娯楽業、法律・法務業、宗教業等をいい、これ以外の事業は法定16業種とされています。
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※たとえば、使用人数が100人であっても、個人経営の飲食業は適用除外となるため、社会保険新規適用届や、被保険者資格取得届を提出する必要はありません。
【社会保険の適用除外者(健康保険と厚生年金保険で若干の違いがあり要件も多いため、一般的な要件のみを記載)】
① 短時間就労者(1週間の所定労働時間が20時間未満の者)平成28年10月1日より
② 季節的事業に使用される者で、4か月以上使用される見込みのない者
③ 臨時的事業に使用される者で、6か月以上使用される見込みのない者
以上、簡単にまとめてみました。
個人事業の場合は、特に社会保険は加入しなくてもいい場合が多いですが、法人成りをすると加入義務が生じるため、注意が必要です。保険料負担もばかになりません。ただし、許可を取得するためには、社会保険の加入が義務づけられている場合もありますので注意しましょう。建設業許可の場合は、社会保険加入状況を記載した書面並びに確認資料の添付が求められます。